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DNA合成とバイオエコノミー

DNA合成とは、DNAの構成単位である塩基(A、T、G、C)を化学的に繋げていき、DNA配列を創り出す技術です。DNA配列を解析するシークエンス技術はDNAを「読む」技術と表現されますが、DNA合成技術はDNAを「書く」技術であるといえます。

近年、DNA合成とゲノム編集に代表される生物の遺伝子を人工的に改変するバイオテクノロジーが大きく進展しました。一方、デジタルテクノロジーも飛躍的な進展を遂げ、ロボティクスやAI等の技術が、生物学研究へ応用されるようになりました。このようなバイオテクノロジーとデジタルテクノロジーの双方の進展とそれらの融合による技術革新を背景として、生物機能を産業に応用することを念頭においた合成生物学(Synthetic Biology)や工学生物学(Engineering Biology)と呼ばれる学際的分野が誕生しています。

また、生物学の工学的利用のより一層の進展の先にある目指すべき経済社会像として、「バイオエコノミー」という概念が提唱されるようになりました。バイオエコノミーとは、バイオテクノロジーを基盤として、持続的かつ再生可能性のある循環型の経済社会を拡大させていく考え方です。2020年にMcKinsey Global Instituteが発表した「The Bio Revolution」によると、バイオエコノミーは、健康・医療、農業・食品、消費財、化学品、エネルギーなどを含む広範な産業へ波及し、バイオテクノロジーを基盤として形成される産業の世界市場は2030年~2040年に年間2兆ドルから4兆ドルに達すると予測されています。

DNA合成とバイオエコノミー

2000年代半ばに次世代シークエンサーが登場したことによりDNA解析のコストが劇的に低下し、蓄積される生物資源データは膨大なものとなりました。これに続く新たな潮流が、生物を司るプログラムといえるDNAを設計・合成し、その機能を産業利用するというものです。DNAを「読む」から「書く」へ、バイオエコノミーの実現に向けて時代はその転換点にあります。

バイオファウンドリ
~バイオエコノミーの実現を牽引するプラットフォーマー~

バイオエコノミーの実現には、DNA合成等の基盤要素技術に加え、それらを使いこなすための周辺技術と設備がパッケージ化されたプラットフォームが必要となります。そのプラットフォームを有する企業が「バイオファウンドリ」です。

バイオファウンドリでは、Design(設計)、Build(構築)、Test(試験)、Learn(学習)の4つの工程から構成されるDBTLサイクルを高速で回すことで、人工的に改変した細胞のDNA配列(入力情報)と発揮される機能(出力情報)に関するデータを蓄積し、高機能な細胞を効率的に創り出します。「ファウンドリ」とは、もともとは半導体チップの製造工場を指す用語ですが、バイオファウンドリでは自動化・並列化された装置で大量のバイオサンプルを扱い、細胞(スマートセル)や生産プロセス(スケールアップ)の研究開発を行います。

バイオファウンドリ

DBTLサイクルのBuild(構築)工程において欠かせない技術がDNA合成技術です。DNA合成における技術力が、Design(設計)工程における設計範囲の拡大、DBTLサイクル全体の効率向上に大きく寄与することになります。特に、長鎖DNAは従来技術では合成が困難であるにも関わらず、複数遺伝子(遺伝子クラスター)の改変には長鎖DNAが求められることが多いため、有用物質の生産を目指すバイオファウンドリにおける需要がより一層増していくことが予想されます。つまり、DNA合成技術はバイオエコノミーの実現を支えるキーテクノロジーといえます。

当社は、独自のDNA合成技術であるOGAB®およびその応用技術であるCombinatorial-OGAB法を活用し、広範な分野における企業や研究機関に合成DNAを提供するとともに、自社で合成したDNAを原料とする垂直統合型ビジネスモデルとして遺伝子治療に特化したバイオファウンドリ、「遺伝子治療バイオファウンドリ®」を展開し、バイオエコノミーの実現に取り組みます。

OGAB®

OGAB®(Ordered Gene Assembly in Bacillus subtilis法)は、バイオテクノロジーとデジタルテクノロジーを融合した当社独自のDNA断片集積法です。本手法は、50個以上のDNA断片を連結することで、最大100kbpまでの様々な塩基長のDNAや、偏りのあるGC含量、リピート配列を含むなど、難度の高い配列のDNAも合成可能な優れた技術です。当社では、①当社開発の専用ソフトウェアによる最適な集積用DNA断片(OGABブロック)の設計、②自動化装置によるOGABブロックの合成と集積、➂枯草菌の特徴を活用したDNAの環状化とクローニングからなる製造プロセスを確立し、世界で初めてOGAB®によるDNAの商業生産に成功しました。

OGAB®法

OGAB®法によって合成可能となるDNA

  • 数kbpから100kbpまでの様々な塩基長
  • 合成難度の高い配列

枯草菌を利用するメリット

OGAB®は枯草菌を利用してDNA合成を行う、世界唯一の技術です。枯草菌は、細胞表層でのDNAの切断、直鎖状DNAの細胞内への取り込み、細胞内でのDNAの自発的な環状化など、大腸菌とは大きく異なる特徴を有しています。OGAB®の最大の利点は、大腸菌で課題となる試験管内でのプラスミドDNAの環状化反応を回避できることです。これにより、従来は困難であった長鎖DNAの合成が実現されました。その他、医療用途で求められるエンドトキシンフリーのDNAも合成可能です。

OGAB®枯草菌を利用するメリット

OGAB®法の合成実績

OGAB®は、300種類を超えるDNAの合成実績があります。当社では、これまで受託したほぼ全てのDNAの合成に成功しています。

対象 DNAサイズの目安(kbp) 合成実績数
細菌解糖系オペロン 10 150種以上
ペプチド合成酵素 40 150種以上
抗体生産菌関連遺伝子群 30 50種以上
ヒト遺伝子 100 数種
ファージゲノム 50 数種
ウイルスゲノム関連配列 30 数種

Combinatorial-OGAB法

スマートセルの構築には、多数の遺伝子と各遺伝子の発現因子が協調的に働くように組み合わせた遺伝子クラスターが必要です。しかし、従来の手法では無数の組み合わせに対応するDNAライブラリーを構築することは極めて難しく、最適な遺伝子クラスターの探索に多くの時間と労力を要していました。この課題を解決するために、当社は独自技術であるCombinatorial-OGAB法を用いて、大規模かつ多様なDNAライブラリーを構築します。これにより、物質生産に最適な遺伝子クラスターを短期間で探索することが可能となりました。

Combinatorial-OGAB法

Combinatorial-OGAB法の特長

  • 幅広い用途に対応可能

プロモーター、ORF、ターミネーターなど、各種配列を対象としたDNAライブラリーの構築が可能であり、ウイルスベクターの開発、多重特異性抗体の開発、有用天然物質の生産量向上、酵素の活性向上など、幅広い用途に利用できます。

  • 育種開発期間の短縮と開発コストの大幅低減

ライブラリーの材料となるDNA断片を再利用することができるため、DBTLサイクル毎に必要となるDNAライブラリーの再構築を短期間でかつ低コストで実行可能です。これにより、育種開発期間の短縮並びに開発コストの大幅な低減を実現します。

オールインワンプラスミド™

遺伝子治療に用いるアデノ随伴ウイルス(Adeno-associated Virus:AAV)ベクターの製造においては、3種類のプラスミドDNAを用いる方法(Triple Transfection)が現在主流となっていますが、当社が開発したオールインワンプラスミド™は、AAVベクターの産生に必要な全ての遺伝子を一つのプラスミドに搭載し、1種類のプラスミドDNAを用いる方法(Single Transfection)でAAVベクターを製造可能な画期的な技術です。このオールインワンプラスミド™OGAB®を利用してゼロから合成されるため、ベクター部分を含め、1塩基単位で自在に設計することができます。さらに、Combinatorial-OGAB法を組み合わせることで、最適な遺伝子の組み合わせパターンを探索可能です。

オールインワンプラスミド™の技術を利用することで、AAVベクターの産生に必要となるプラスミドDNAの数を削減でき、AAVベクターの製造コストとプラスミドDNA調達に必要となるリードタイムが大幅に低減されます。開発当初はAAVベクターの生産量の低下が懸念されましたが、遺伝子配列や製造方法の検討により、従来のTriple Transfection法と同等量のAAVベクターを産生することに成功しています。

オールインワンプラスミド™

当社はオールインワンプラスミド™をAAVベクターのGMP原料として利用するため、高純度のオールインワンプラスミド™を高収量で製造可能な、完全合成培地による培養プロセス、カラムおよびフィルターによる精製プロセスを開発しました。また、遺伝子治療バイオファウンドリ®・サービスと組み合わせることで、AAVベクターの製造コスト低減と、臨床試験開始までのリードタイム短縮に貢献します。

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